序
「いつか欲しいな」と思って、仕事で使うわけでもないのでずっと後回しにされてきた2本のヘッドフォンをついに買っちゃったのでレビュー。
普段遣いしてるK72と、現在お仕事で使ってるPro580i, Signature Studioも含めて比較レビューしていくよー。
なお、私はそれだけでプロとしてやっていけるくらいには耳がいいけど、それでもリファレンスなしにヘッドフォンを評価するなんてことはできないよ。
AKG K72
嫌な音ではないけれどいい音でもない。
少しこもりを感じるし、音の分離が甘くて、ベースは立っているようで混ざってしまっているし、シンバルは痛くはないけれど混ざってしまっていてのっぺり。
音としては疲れにくいし、装着感も快適なので普段遣いにはいいんだけど音楽を聴くヘッドフォンとしては厳し目。音に深みがないためにみょんみょんわんわんしちゃって、音が大きくなると不快感が出てくる。
YouTube見てるときに使う分には気にならないんだけども。
装着感は非常に良い。ヘッドフォン自体も軽いし、側圧はあまり強くなく、イヤーパッドは快適。 普段遣いには非常によくて、動画を見たりゲームをしたり、ビデオ通話したりするときのお供として活躍してる。
ULTRASONE PRO580i
低音モリモリだったHFI-580とは打って変わってバランスがよくなったPRO580i。 相変わらず側圧は強いんだけど、パッドがふわふわになった関係でつけてて痛い感じは減った。
分解能は高いんだけど、アタックが強調される傾向があって、高めの音が刺さり気味。ちょっとだけ痛い。 ドラムやベースはなかなかいいサウンドで鳴る。もこもこしてるわけじゃなくてちゃんと聴き分けられる音で鳴る。
お値段(2万円しないくらい)の割にめちゃくちゃ良い音で、割とオールマイティないいヘッドフォンなので、なくなっちゃった(そもそもそういう価格帯のものがULTRASONEからなくなっちゃった)のがすごい残念。
いいヘッドフォンではあるけど、音が強すぎるというのもあって、そこそこ疲れるヘッドフォンではある。私はこれは長時間使うのは無理。
AKG K712 Pro
AKGのリファレンスモニターのフラッグシップモデル。ケーブルは細いけれどインピーダンスは62Ωと非常に高い。ちなみに、下位モデルのK612は120Ωもある。びっくり。
私が知る限り最もつけ心地の良いヘッドフォンで、本当に快適。その分耳がイヤーパッドの中でかなり自由度を持っているのでちゃんと位置合わせが必要。ケーブルはミニXLRの分離型。標準が3mコードと5mカールコードとこれまた扱いやすい。
音は非常にナチュラルだけど、開放型であるせいか、低音の押しがなくてちょっと変な感じがする。 音の全体的な印象としては、抜けは良くて、音の密度が低い感じで、聴覚的にはスピーカーで聴くのとは非常に遠い。 きらびやかな声の女性ヴォーカルとはあんまり相性よくないかな。EDMが一番違和感ない。 Kitkit Luさんの曲とかはすごくよく聴こえるから、ソースとの相性は割とある方だと思う。ただ、音は立ちつつも疲労が非常に少ないので、音楽に対してスイートなソースが狭いというのとは別に、用途としては非常に広いと思う。それこそ、ゲームにも良いし。
いい音かって言う話をするのであれば、好みの問題を加味すれば(私はULTRASONEの音がとても好きなので)PRO580iと同じくらいのレベルだと思うし、分解能でもそのあたりじゃないだろうか。いや、さすがにK712のほうがちょっと高いかな。PRO580iで聴き取れなかった音がちゃんと区別できたりするから。 MDR-900STなんかよりはずっと(分解能的にも、音楽的にも)良いと思うけど、めっちゃいいモニターヘッドフォンと比べるとちょっと見劣りするので、やっぱ6万円くらいのモニターヘッドホンとの間だと差があると感じる。
開放型なので音漏れは大きめ。レコーディング時は問題になるかも。
ちなみに、フラッグシップモデルと言いつつも、AKGにはK812とK872という10万円くらいするハイエンドモデルがあるので、ガチで良い音のAKGが欲しい人はそっちになるんじゃなかろうか。私は聴いたことないけど。
ULTASONE Signature Studio
ULTRASONEの旧リファレンスモニターのフラッグシップモデルのSignature Proの廉価版。バカ高ヘッドフォンに属するモデル。
音が全体的にしっかり出て良いんだけど、著しく過剰に分解能が高い。私はお仕事で使っているんだけど、ミックスやマスタリング、レコーディングでは大活躍する高性能なんだけど、音が調和しなさすぎてリスニングには向かない。超疲れる。 疲れはするけれど、サウンド自体はすごく好き。音自体はK712よりも良いでいいと思うな。ただ、疲れる。さらに言うと側圧も強いし、夏場はすっごい蒸れる。
ULTRASONEは安価なモデルを廃止してSignatureシリーズだけにしてしまっていて、Signature Master/Natural/Pulseの3モデル構成。Signature Pulseが旧Signature DJと同じようなもの、MasterとNaturalはSignature Proと同じような構成。正直、Proを使ってた私から見ても10万円のリファレンスモニターって割とあたおか。 一般の人にはおすすめできない。
STAX SRS-3100
今回の激ヤバ枠。コンデンサーイヤースピーカーSR-L300と専用のドライバーユニットSRM-252Sを組み合わせたSTAXのエントリーキット。SR-L300は4万円くらいだけど、STAXは専用ドライバーユニットが必須なので実質としてはセットで7万円くらい。上は100万円を超えるSTAXにすれば本当にエントリーだけど、ヘッドフォンの値段としては何もエントリーじゃない。
これに関してはちゃんと説明が必要で、STAXのヘッドフォン、というかイヤースピーカーは静電型のヘッドフォンという珍しいもので、普通のヘッドフォンとは原理が違う。さらに、ダイナミックヘッドフォンとダイナミックマイクは構造的には同じもので、スピーカーをマイクとして使うこともできる(逆は危ない)のに対して、コンデンサー型の場合逆にならない。コンデンサーマイクはコンデンサーに電気をためておいて電圧変化を拾う仕組みなのに対し、スピーカーだと電圧のかかった振動膜を電気で震わせる構造なので、原理は一緒だけど構造が違う。
で、そんなマニアックなコンデンサースピーカーをヘッドフォンにしてしまっているのがSTAXで、コンデンサースピーカーはそもそも指向性が強くなりやすいから、ヘッドフォンにするのは以外と合理的。ただし、耳元の振動膜に高電圧をかけるということと、そもそもどうやってラインレベルの信号で駆動する電圧変化を発生・伝達するかという問題がある。真面目に考えると結構ヤバイ。
ただ実際、STAXのヘッドフォンは根本的なところで普通のヘッドフォンとは違う土俵であって、やっぱ相応に音もやべー。まともな趣味のレベルで出しておかしくない金額の範囲にあるヘッドフォンとしては最もいい音がすると思うし、最も好きなヘッドフォンでもある。
手放しで称賛できないのは、まぁまぁのサイズのドライバーユニットをどこかしらに置き、今どきあんまり使わないRCAで接続し(最近はXLRかTRSのバランスが普通なので、TRS-RCAでつなぐくらいしか道はない)、だいぶゴツくて扱いに神経を使う邪魔なケーブルがついたでかくて邪魔なヘッドフォンをかぶる、というめっちゃくちゃめんどくさいこと。
誤解を解いておくべきなのは、構造や構成とか、見た目とかは変だけど、音は何も変じゃないってこと。 普通にすごくいい音であり、すごく自然な音で、音に対して過剰に神経質になってしまうプロの耳からしても全然嫌じゃないというか、分解能もすごく高くてモニターヘッドフォンとして使えるくらいなんだけど、普通に心地よくリスニングできる魔法のようなヘッドフォン。 ソースも特に問わないから、ロックだろうがジャズだろうがクラシックだろうがEDMだろうが何でも心地よく聴ける。シンバルがちゃんと聴こえて、かつ痛くないヘッドフォンっていう時点でだいぶ希少なんだけど、さらにピアノを純粋に心地よく聴けるヘッドフォンっていったらそうそうない。 本人の嗜好とか好みのバランスとか音量とかに関係なく、シンプルに「いい音で聴ける」ヘッドフォン。
モノのクセはすごいけど、音は普通にすごく良い。すごい形してるけど、実は装着感もそんなにおかしくはない。
値段に関しても、このSRS-3100はまともというか、むしろ安い。7万円くらいのヘッドフォンでここまでいい音出るもの他にないからなぁ。さすがに上位モデルの値段はヘッドフォンに出すお金としてはおかしいと思うけど。
After all
K712 ProはYouTube, 映画, ゲーム, 音楽となんでもイケて、長時間装着していても疲れが圧倒的に少ないいい音のヘッドフォン。めちゃくちゃ高いというわけでもないので、1本もっといて間違いない。 そもそも(低音が薄いので)AKGのヘッドフォンがそんなに好きじゃない私でも納得するだけの高音質を持っていて、装着感はベスト。
音を聴き分ける道具としてのリファレンスモニターヘッドホンとして最高のものを探しているのなら、最高のは他にあるかもしれない(少なくとも私にとってはそれは変わらずSignature Proである)けど、DTMerとかプレイヤーとかならお仕事道具としても全然アリだし、K712 Proを至高のリファレンスモニターだと感じる人も普通にいると思う。
見た目もカッコイイしね。
SRS-3100は「いい音」のヘッドフォンや、「自然な音」のヘッドフォンを探していて、納得できるヘッドフォンに巡り合っていない人には断然おすすめ。腰の引ける特異さだけど、サウンドは至って正道を行く。
値段に関してもSRS-3100はいい音のために出してもいいお値段をしていて、別に割高感はない。 ただ、RCAでつないだドライバーユニットを置いて、電源つないで、邪魔なケーブルを這わせて、と非常にめんどくさいので煩わしさを感じるのと同時に使い方が普通のヘッドフォンより制限される。 じっと座って音楽を聴くのに適していて、逆に言うとそういう感じでしか使えない。デスクワーク中常にヘッドフォン使ってない人だとなおさら煩わしい。
「使い方」「使い勝手」「煩わしさ」を代償にしていい音を手に入れる感じ。
余談だけど、K712 Pro→SRS-3100の順でテストしたときは「あー、やっぱいい音だなぁ」って感じだったんだけど、逆にSRS-3100→K712 Proで聴いたら「んんん?? 音の抜けがすごく悪いなぁ」と思ってしまった。 K712 Proは抜けはかなり良いのに!!
ほんと沼。