Synopsis
私はもともと赤軸を割と苦手としていて、これまで基本的に使ってこなかったのだけど、最近赤軸系キーボードを好ましく思う機会が増えたので、このあたりの話をしようと思う。
Piecesに書いていることからも分かるように、基本的には戯言である。
What is 赤軸
Cherry MXの機械式キーボードスイッチに由来する。
かつてはCherry MXのPC用キーボードとして一般的に販売されているスイッチは赤・黒・青・茶の4種に限られていた。
そして、一般的に入手可能なメカニカルキーボード用スイッチはCherry MXのものしかない時期を経て、多くのCherry MXと互換形状のスイッチが誕生し、そして互換性のない新たなるスイッチが多数生まれて今に至る。 この時期にCherry MXしかなかったこと、そしてCherry MXが現在に至るまで多大な影響を与えたことからCherry MXを引き合いに出して表現されることが多い。これは、Cherry MXしかなかった時代の習慣を引き継いでいるだけという面もある。
また、この4つのスイッチがわかりやすく異なる特性であったことも使われ続けている理由のひとつだろう。 赤軸は軽いリニア、黒軸は重いリニアで、青軸はクリッキー、茶軸はタクタイルである。
実のところその頃も重いクリッキーの緑軸や、非常に重いタクタイルもしくはリニアの灰軸なども存在していたが、製品がほとんどなく一般にはなじみがなかった。
ちなみに、現在はCherry MXスイッチが採用されている例は結構少なくなっている。 これはコスパ重視の安価なキーボードでも、高級なゲーミングキーボードでも、だ。
赤軸はアクチュエーション45cN、ボトムアウト65cNのリニアタイプで、キーストローク4.0mm、アクチュエーション2.0mm。 これが「標準」となったCherry MXの仕様である。 もっとも、4.0mmストローク、2.0mmアクチュエーションはもっと歴史あるものではあるが。
赤軸はストロークが軽い。茶軸はアクチュエーションは45cNだがタクタイルは55cNで、青軸はアクチュエーション50cNに対しタクタイル60cNである。 入力45cNで入力可能な赤軸はCherry MXの4種類のスイッチの中で最も軽い。
この「軽い」はゲーム向きであるとされていた。 といっても当時はゲームに「最適」なわけではなく、どちらかといえばRealForceのほうがよりゲーム向きの高級品で、赤軸は手頃な価格で入手できるゲーム向きキーボードとされていた。 ゲーム用途では茶軸と赤軸が主な選択肢とされ、素早い操作を求める場合に赤軸が選択された。
一方、タイピング用途では赤軸は軽すぎるために一般には不適とされた。 タイピングではCherry MXの範囲では茶軸が好まれたものの、互換軸では青軸が好まれた。 黒軸を好む人はかなり少なかった。
その後、Cherry MXからはスピードシルバー軸が登場する。 これは赤軸同様に45cNアクチュエーションで、総ストローク3.4mm、アクチュエーション1.2mmと短縮した、いわゆる「スピード軸」である。
この頃から45cNが普通……というか、むしろ45cNは重い部類になっていく。 今や「軽い」といったら30cNあたりで、45cN程度のキーボードはタイピング用途でも人気だ。 自作キーボード界隈では30cNあたりのキーボードを普通にタイピングに使う人も多い。
手元にある赤軸系キーボード
Cherry MX Red Switch
アクチュエーション45cN、ボトムアウト65cN、総ストローク4.0mm、アクチュエーションポイント2.0mm。
リファレンスとも言えるCherry MXのスイッチ。
LEOBOG Graywood V4
イニシャル30gf、アクチュエーション40gf、ボトムアウト50gf、総ストローク3.6mm、アクチュエーションポイント1.5mm。
安価な軽めのショートスイッチ。
DAREU Dream Linear
アクチュエーション40gf、ボトムアウト60gf、総ストローク4.0mm、アクチュエーションポイント2.0mm。
DAREUのキーボードに採用されていることの多い、安価な静音リニアスイッチ。 スイッチ単体でも販売されている。
Razer Optical Linear (V1)
アクチュエーション40gf、総ストローク3.5mm、アクチュエーションポイント1.0mm。
HUNTSMAN (v1)やHUNTSMAN Tournament Editionで採用されたオプティカルリニアスイッチ。 軽い上にアクチュエーションポイントが非常に短く、高速入力に特化している。
Razer Optical Linear (V2)
アクチュエーション45gf、ボトムアウト70gf、総ストローク3.5mm、アクチュエーションポイント1.2mm。
HUNTSMAN MINIから採用されたRazer独自のオプティカルリニアスイッチ。 従来より重くなったため、かなり自然になった。 また、V1はアクチュエーション/リセットともに1.0mmだったが、V2はリセットは1.0mmのままアクチュエーション1.2mmに深められたため、(超上級者には)コントロールしやすくなった。
個人的感想
もともと私は赤軸は節度がなく、ミスタッチが増えるためあまり好まなかった。 軽いスイッチに触れる機会が増えた今でもあまりその印象は変わらない。 が、少し注意を払えば普通に使えるようには感じられるようになった。
とはいえ、そもそも打ち心地自体があまりよくない。 ある意味スタンダードなのだが、打ち応えにやや乏しい。 おそらく、反発が弱すぎるのだろう。
Razer Optical Linear V2は非常に自然だ。 別に軽くはなく、一般的な45cNの軽タクタイルに似ている。 動きがスムーズで、非常に入力しやすい。自然かつ上質で、スイッチを意識することのないスイッチだ。
だが、その特性はHUNTSMAN MINIとHUNTSMAN V2で異なっているように感じられる。 HUNTSMAN MINIのほうが重く、しっとりした打ち心地。より気持ちよく、正確なタイピングが可能だが、HUNTSMAN V2のほうがスイッチの存在感がなく自然である。
このV2スイッチはRealForceの45gfや、Libertouchの45gfと同じようなフィーリングであり、「赤軸系」と呼んでいいものかと思う。
対してV1スイッチは非常に特徴的。 異様に軽く、打ち応えがまるでない。 わずかに触れただけで入力されてしまう上に、指に抵抗感を感じることなく底打ちしてしまう。 戻りの感覚はある程度あるが、ストロークは感じにくい。
V1スイッチは、私にはタイピングは結構厳しい。 ミスタイプが多い上に、快適でもない。 昔感じた「赤軸」のイメージに近いが、実際の赤軸とは大きく異なる。
また、ゲームにおいてもV1スイッチはあまり良くないと感じている。 入力がシビアで基本的にはショートストロークのほうが良い音ゲーでもそれほど精度は上がらない。 それどころか、戻りを感じづらいためにトリルでの抜けが発生しやすい。同様に、押している状態からの再入力もしづらい。
Graywood V4は相当良い。 バネ感のある感触で、40cNのショートストロークながら実際にタイプしていると意外と底打ちしない。 オプティカルリニアV2を別枠とすれば、赤軸系で最も気に入っている。 赤軸系の高級軸は試したことはないが、1台ビルドする価値はあると思う。
DAREU Dream軸もかなり良い。 しっとりした打ち心地で、かなり正確にタイプ可能。 タイピングは気持ちよく、ゲームでも正確に入力できる。
音ゲーで試した限りは、Dream軸が最も良いスコアが出る。 おそらく戻りがGraywoodよりも強いためだろう。Graywoodは底付きさせて離す感覚が強く、早いフレーズで精度が落ちやすい。
これを踏まえてだが、赤軸系のスイッチは、どれも同じようでちゃんと違いはある。 ただ、単に「45cN付近のリニアスイッチ」というだけで「赤軸系」と呼ぶのは難しく、Razer Optical Linear V1はもっと明確に敏感だし、Razer Optical Linear V2は赤軸よりは黒軸に近い。一方、Graywood軸については、私はスピードシルバー軸の経験はないためCherry MXをリファレンスにはできないが、スピード軸を称する敏感なタイプの軸(Razer Optical Linear V1も含む)より赤軸に近いものに感じられる。
これを前提とした上でだが、(GraywoodやDreamのような)赤軸系の新しい軸は、タイピング用途でもかなり良いと思う。指に負担の少ない軽さで、タップに近い感覚で打てる。 軽すぎて馴染めないと避けてきたけれど、今になると結構良いと思うし、現状ベストに近いんじゃないかとも思う。
現状最も気に入っているのはDAREU Dream軸のキーボードで、このスイッチを使いたいがために(私のタイピングには適さない)US配列に変更して使うことすらある。
この意味で言うと、最近増えてきているホール効果センサーを用いたキーボードも結構面白いんじゃないかと思う。タイピングにはオーバースペックで好みのスイッチに付け替えるようなことには適さないものだが。
けれど実際問題として勧めるのは難しい。 USキーボードで構わない人ならいくらでも入手できるのだけど、JISキーボードで「最近の赤軸系のスイッチ」を使っているキーボードは相当入手性が悪い。 自作でもJISキーボードの自作は相当ハードル高いのでやはり入手は難しい。 仮にカスタムベースとして既存のキーボードを使うとしても、選択肢はKeychronとLEOPOLDぐらいのものである。
また、これらのキーボードを使うときは、私はローマ字入力を使っている。 私は普段はJISかな打ちだし、ローマ字入力は練度にかなり差があるため速度差がある1が、手の動きが大きいかな入力では誤打率がかなり上がってしまう。そもそも赤軸のメリットを活かして「なめらかにタイプする」ということが難しいので、ローマ字入力のほうが明らかに良い。
これはほとんどの人にはデメリットとはならないだろうが、私の場合は得意とするタイピング方式をとれないというデメリットは大きいため、そこまで含めるとベストとはなりづらいと感じている。
ks単位で言うと、JISかな打ちが300〜500ks/mなのに対し、ローマ字入力では150〜250ks/m程度。ローマ字入力で必要キーストロークが1.6倍程度になっていることを踏まえると、実効では1/3くらいまで遅くなっている。↩︎