はじめに
日本ではFind X3 Pro以来のOPPOハイエンドとしてFind X8が販売されている。
その評価は判を押したように「久しぶりのハイエンドで、ハイエンドとしては破格の値段」ということである。
だが、Findを愛好している私としては「いい加減な詭弁だ」と感じる。 OPPOの意向を反映しているのかもしれないが、まずFind X8は「ハイエンド」などではない。
Find Xというスマートフォンについて
実はFindというシリーズは位置づけがかなり安定していない製品である。
初代Find Xは2018年に発売されたスマートフォン。 当時は「いかにしてベゼルをなくすか」を競っていた時代で、Find Xは珍しいポップアップインカメラを採用していた。 このため、当時は「先進的で、高性能で、イロモノ」という扱いだった。
2020年、2代目となるFind X2 Proが日本で販売される。 本製品はau専売となり、海外では14万円程度で販売されている中、端末買い切りでも10万円を切る価格というかなり安価で提供された。
Find X2シリーズはFind X2 Neo, Find X2 Lite, Find X2, Find X2 Proという4つのラインナップで展開された。 これは、当時OPPOは中国国内向けにRenoという若者向けシリーズを展開しており、これに対して大人向けのFindという位置づけからラインナップを広げた形である。 当時OPPOは製品ラインナップがかなり限られていたため、展開を広げる意味合いもあったのだろう。 日本に投入されたのは、Proのみであったと記憶している。
Find X2 Proはかなりオーソドックスな構成だが、プロセッサ、カメラ、筐体、スクリーンなどあらゆる面で最高峰を目指した豪華な仕様であった。 この時期にFindは「フラッグシップモデルの血筋」という位置づけを獲得した。
続いて2021年にFind X3シリーズが登場した。 当初はFind X3とFind X3 Proのみが登場、後にNeoとLiteが追加された。 NeoとLiteはRenoのリネーム品であり、Renoは中国向けであったためグローバル製品としてFindのブランドを使った形だ。 ちなみに、X2の頃から日本にもRenoの名前のスマートフォンが(現在に至るまで)投入されているが、中国向けの同名のモデルとは異なり日本専売の専用モデルである。
OPPOのFind以外のモデルの特徴として、日本向けにおサイフケータイなど各種機能を追加している一方、性能はかなり控えめで価格も高い。
続く2022年にはFind X5シリーズを販売。 Find X5, Find X5 Proがラインナップされ、後にFind X5 Liteが追加された。 グローバル版はFind X5のみ展開。日本では販売されなかった。
Find X5はかなり「微妙な立ち位置の」スマートフォンであった。 というのも、RenoシリーズのProモデルがすでにFind X5 Proに迫る性能となっており、その違いはわずかなカメラとディスプレイ品質の違いに過ぎなかった。 また、Findがエッジディスプレイであるのに対し、Renoシリーズはフラットディスプレイであるという違いもあった。
さらに、OPPOが保有するOnePlusブランドからもFind X5 Proに匹敵するモデルを販売。 当時すでに中国では過激かつ奇抜なカメラ競争に突入していたものに対し、Find X5 ProはFind X3 Proの正統進化に過ぎず、かなり「退屈な」スマートフォンになってしまった。 一応、ハッセルブラッドとのコラボレーションという目玉はあったのだが、それが表に見えないことから、話題としてはかなり弱かった。
Findがその名前を取り戻したのはFind X6シリーズである。 Find X6とFind X6 Proがラインナップされ、ハッセルブラッドとのコラボレーションによるカメラチューニングと専用プロセッサを用いたAI機能がウリ。 メインセンサーに1インチのIMX989を搭載し、残る2つのセンサーにも従来のハイエンドであったIMX890を搭載。望遠レンズにはペリスコープ方式を採用し、これでもかというほどスペック厨みのあるスマートフォンとなった。
しかしながら、Find X6 Proは先行したVivo X90 Pro+と比べて「実際の作画は微妙である」として、話題ほど人気が出なかった。 そして何より、Find X6シリーズは中国専売であり、グローバル版も出なかった。
2024年初頭、Find X7シリーズが登場する。 ラインナップはFind X7とFind X7 Ultra。 トップモデルの名称は変更されたが、ラインナップは依然2種類であり、中国専売のままであった。
Find X7 Ultraは方向性としてX6からのキープコンセプトで、カメラ重視のスマートフォンとなっている。 メインセンサーは1インチのLYT-900。望遠センサーは1/2サイズのOV64Bにペリスコープレンズを組み合わせる。 残るもうひとつのセンサーも望遠で、IMX858をこちらもペリスコープレンズを伴って採用した。
登場前はFind X6のよくない部分を徹底的に洗い直したモデルとして期待が高まったが、結局はライバルであるVivo, Samsung, Xiaomiに対してアドバンテージを獲得することはできなかった。
また、Find X7ではフラッグシップモデルのFind X7 Ultraよりも、MediaTekプロセッサを搭載する無印を前に押す戦略が目立った。 この傾向は、X6のときから見受けられた。
また、X6, X7が微妙な要素はまだある。 X6, X7はかなり派手な性能を纏っているのだが、実は発売のちょっと前にOnePlusからかなり近いモデルが発売されている。
しかもRenoのほうも性能的にはProモデルに匹敵する上に、従来のフラットディスプレイという特徴も失ってFindの強みが非常にわかりにくい状態になった。
なお、Renoシリーズは性能こそFindに近いが、カメラにはかなり差があり、その意味ではFind X5よりは差別化されていると見ることも可能。OnePlusは本当に近いので、微妙な味付けの違いにとどまっていた。 ちなみに、OnePlusはグローバル版はOxygenOSという、昔からOnePlusが採用していたOSを使用しており、これが差別化ポイントなのだが、中国版はFindと同じ(というには違いがあるが)ColorOSを採用しているためさらに微妙である。
そして現在最新モデルとなるのがFind X8シリーズ。
2024年11月にFind X8とFind X8 Proを中国向けとグローバル向けで発表・リリース。 Find X8 ProはMediaTekプロセッサを搭載する、従来の無印寄りのモデルであり、後にUltraがリリースされることが匂わされた。 Ultraは2025年第一四半期発売の予定のようである。
一見するとX7からそれほど変更はないように見えるが、カメラが4つに増加。 従来のエッジディスプレイではなく、フラットに近いマイクロクアッドカーブディスプレイを採用した。
Find X8とFind X8 Proは名前からするとかなり大きな差がありそうだが、割と間違い探しである。 無印のほうが少しだけ小さな筐体で、カメラは3ユニット。 Proの実売価格は3割程度高い。
Find X8 UltraはQualcomm製プロセッサが採用され、相変わらず現在考えられる最高を詰め込んだ製品となっている。 Proもプロセッサなど処理性能以外は割と盛ってあることから、ProかUltraかはこだわりの強さと、どれだけハイエンドを求めているかによりそうな感じである。
ただ、OPPOはProを事前にゴリゴリ推していたことを考えると、UltraよりProを推したい感じが少しする。 中国版のOPPO端末を持っていると、メッセージアプリでティザーや発売情報などをめっちゃ送ってくるのだが、Ultraはまったく触れていない。まだ秘密なだけかもしれないが。
また、Ultraは中国専売となる見通しである。
ちなみに、またしてもFind X8 Ultraの前に性能的には非常に近いOnePlus 13が発売された。
中国のスマートフォン事情
外から観察していての話になるが、中国の商売そのものがものすごく「競争的」であると感じる。
基本的には強み、あるいはライバルよりも優れているところを、ものすごく過剰に強調する。 同時に、それはスペックであることが多いため、単に口だけの話ではなくて性能をやたら盛りたがる。 ユーザーの消費行動としても、その「強みのセールストーク」ありきであるようで、「ユーザーは必要であるか否かに関係なく、優れているように見せられなければ買わない」ようである。
もともと近年の電子製品は中国が製造を握っていることから数多くのベンダーが高性能な製品をどんどん出してくるのだが、現状スマートフォンに関しては、「トレンドをすべて抑えているのは前提で、特にカメラに対して激しい競争がある」だと感じる。 10年くらい前はiPhoneに似せることが「売れる」トレンドだったのだが、現在はスマートフォンとしての使い勝手を犠牲にしてもカメラモンスターになっている。
また、数年前までカメラモンスターはハイエンドモデルだけの戦いだったのだが、現在はその下のモデルまで割とカメラモンスター競争をしている。
また価格に関しても相当高騰している。 現状、ハイエンドで高いものだと25万円くらいする。Find X8 Ultraも20万円に届きそうだ。
そもそもFind X8 Proが12+256GBで5299CNY、16GB+1TB+衛星通信で6799CNYとなかなかのお値段で、日本に輸入すると16+512GBで15万円くらいである。為替のせいかもしれないが、これはFind X7 Ultraの価格に近い。
偽りのハイエンド
先に言葉の話をしよう。 フラッグシップ(flagship)は旗艦(司令官が搭乗する船)の意で、性能だけでなく周囲に誇示する意味合いをもった編隊の頂点である。日本語訳は「最高級品」。 ただし、スマートフォンの場合は最高級品は一般向けではない特殊なものである場合が多い(OPPOにもFind Nというフォールディングタイプがある)ため、メーカーが自身を象徴するモデルとして据えているものだと思えば良いだろう。
ハイエンド(high-end)は高い端であり、つまりは最高峰である。日本語訳は「最高仕様」。 定量的なものだけでなく、定性的なもの、機能面でももっとも「高い」ものを指す。
両者に違いというものは一応ある。flagshipはローカルグループ内の話であるが、high-endは横断的な群の中を指すことも可能なので、「XXXにはハイエンドモデルがない」という言い方は可能だ。 が、そこらへんの対象群は一旦置いておくとして、どちらも「最強」の意味という理解で良い。もちろん、何にでも最強と言ってしまうのは相当陳腐な話である。
中国ではとにかくなんでも張り合うようでハイエンドの名がProというのが定番かと思えばPro+という名前をつける者が増え、それに対抗してUltraという名前をつけるようになった。
ともあれ、基本的にはハイエンドと同名まモデルは2グレード、あるいは3グレードで展開されることが多い。
2グレードの場合、下位モデルはMediaTek製のフラッグシッププロセッサを採用し、魅力的な謳い文句に溢れている。 最上級モデルの魅力を詰め込みつつ、過剰に高価になってしまう要素を抑制した、いわば準ハイエンドである。 一方、最上級モデルにはメーカーとしてできうる全てを詰め込んだモデルとなっている。
下位モデルもハイエンドでこそないが、最上位モデルがなければ普通にハイエンドに見えるかもしれない。
3モデル構成の場合、上位2モデルの関係が同じで、さらに下位にモデルが追加される。 この場合最下位モデルは、基本的に中間モデルの魅力的なポイントを取り除いた、いわゆる「ナーフされた」仕様になることが多い。 とはいえ中間モデルはかなり最高に近いモデルに仕上がっているため、部分的にナーフされても強力ではあるのだが、そのモデルの魅力は失ってしまっているため結構微妙であることが多い。 Find X8の場合は、プロセッサはそのままだが、カメラが削られている。
この下位モデル、だいたいの場合よりその性能に最適化されたモデルがより安く売っているため、かなり微妙な存在である。 特に中国では競争が激しいために、「ナーフされた」モデルというのは比較すると魅力が相当落ちてしまう。
それでも下位モデルを買う人というのは、SNSで見る限り(中国においては)そのブランドが好きだが上位モデルにお金を出せるほどではないという人が多いようだ。 ハッキリ言ってしまえば、「より良い選択肢は存在するが見栄で買っている」ように見える。
ちなみに、この説明だと「同じ筐体の中身を変えている」ように聞こえるかもしれないが、見た目こそ似ているものの共通部品は非常に少ない別物であることがほとんど。下位モデルもちゃんとそれっぽく見えるようになっているし、単なるナーフではなく仕上げには気を配っていることが多い。
近年は3モデル構成で中間モデル(いわゆるProモデル)を推しているメーカーが多いように見受けられるが、これは最上級モデルがあまりにも高額になってしまっているからだろうか。 Qoalcommは相当強気な卸値を設定しているという話もあるし、中国国内でもSnapdragonにこだわる人は多くはないのかもしれない。
さて、では日本のモデルを見てみよう。 なんと日本で販売されているのは、無印のFind X8だけである。
これがProなら分かる。Ultraはグローバル版出す予定ないもんね、だし、Proモデルも「Snapdragonでなければハイエンドにあらず」という人でなければ割とハイエンドで納得できる性能をしている。
が、無印は相当控えめだ。 そりゃあ、スマートフォンがバカ高いのにちゃんと性能の高いモデルが売られていない日本市場の中で見たらハイエンドに見えるかもしれないが、実際は15万円という値段であれば選択肢はかなり広い。 だいたい、Find X8の16+512GBモデルは輸入しても11〜12万円くらいで、15万円はかなり割高感がある。輸入支援している問屋を介した値段と比べてもだいぶ高い。
しかもしかも、他のOPPO製品と違って別に日本市場に最適化されたりはしていない。 まあ、OPPOの中国版は異様なほど強固なプライバシー機能がずらりと揃っているのに対し、日本ではアップデートでプライバシー関連機能はごっそり消えたので、その意味でもナーフされているとは思うが。
日本のOPPO製品は魅力が行方不明になって久しいが、今回もまた「ずいぶんと消費者をバカにしたやり方をしているなぁ」と思うし、どう考えてもメディアが言うような「破格のハイエンド」などではない。
そして大半の消費者はそんなことを知るチャンスなどないし、知ったところで日本の消費者に選択肢はないのである。
というわけで、私は憤懣やる方ないのだ。